四寺廻廊 ジジイのたわ言
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そのうち店先に次々と自転車が止まった。
入って来る人たちは、みな勤め人と思しき中年たち。時計をみると6時半だ。
あっという間に店内は2,3人のグループの輪ができている。 手慣れたもので、それぞれビールや酒のケースでテーブルや椅子を設置する。
おっさんといえば店に入って来るお客さんに、親しげに声を掛ける。
「暫くぶりやね。」「最近、顔、見せんけどライオン通りで浮気してんじゃないの。」「その後は、からだ大丈夫かい?。」と、 愛想のいい店主顔負けの対応だ。
その横で婆さん他人事の様に知らんぷり。
自分といえば、何より慣れない立ち飲み、酔いと共に30分もすると、本当に疲れて来た。足の裏が微妙にイタ重い。
おっさんは心得たもので、デーブルに体を半分預けて案山子の様に一本足で立ったり、 足を肩幅に開いて仁王立ちに成ったり始終動かしている。立ち飲みの姿勢が体に染みついているのだろう平気の平左だ。
[四寺廻廊]
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それを見て真似てみる。屈伸もしてみる。しかし体は収まり処が悪いのか落ち着かない。しんどく成って来た。
店内はガヤガヤと話し声や笑い声で盛り上がっている。しかし、ひとり店主だけは、冷めた目で外を眺めている。
「もう一杯いた。」と、増々調子づいたおっさん。
「もう~あかん、アイちゃんに言うわれとるけん」と、店主の婆さん。すると、
「ええんよ、婆さんには言ってきたけん」と、ニタリ顔で返す。
お袋さん、店主の婆さんに酒を出さないように頼んでいるのだろう。
明らかに嘘臭い返事をするのを隣で見て笑ってしまった。毎回こんなやり取りをしているのだろうと想像すると更に笑えた。
店内を眺めていると感心な事に、常連の人たちは、30分ほどで長居はしない。
勿論立ち飲みだから疲れるのは分かるが、コップ酒2~3杯程で自転車に乗ってサッサと帰る。 くだを巻く、悪い酒飲みの呑み助はいない。
後で聞くと、彼らは家に帰ってからが晩酌の本番で酒屋さんで飲む酒は、 ほんの足馴らしらしい。ほんまの酒好きなのだ。
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[四寺廻廊] 2018.5.20