ジジイのたわ言 日頃思う事、感じた事を書いています。四寺廻廊

四寺廻廊 ジジイのたわ言

  • ここからはドラマ風・・・
    かな泉の店内は十畳ほどの広さでうどん店としては少々大き目だ。
    入ると両側の壁沿いに長いテーブルと4人掛け様の角テーブル二つが備えられている。 奥の正面には、うどんと上乗せの揚げ物が陳列台の上に置かれ、その左に金庫番のおばちゃんが、 そして中央には、出し汁が入った、でかい寸胴鍋が鎮座している。
    昼時が過ぎてお客さんは数人しかいない。
    中盛りのうどん玉のどんぶりを取り、ちくわ天とチョッピリ奮発してかき揚げを乗せる。 皿に伏せた2ケの三角いなりもトレーに乗せ、おもむろに、お白洲の前に進み出る。
    おばちゃんの大岡裁きを神妙な面持ちで待つと二百七十円の声。
    余裕で支払いを済ませる。
    今日に限って壁に貼ってある品書きの値段すらも目もくれないのだ。
    何故かと云えば、今日は旅館からの朝帰り、アルバイト代で懐が温かい。
    それから、トレーは最後の中央の寸胴へ向かう。厳かにそしてシズシズと余裕の体だ。
    出し汁が入った寸胴の左側には、削ったかつお節の花かつおと細ネギが置いてある。
    勿論、自由に乗せられるが、この特産品の細ネギがいただけない。苦くも甘くもない薬味としては失格だと思うが、 それを云うと、だからいいんだ、味が主張しないから出汁の邪魔をしないと、異口同音におっしゃる。
    しかし、味のアクセントには苦みたっぷりのネギは必要だろうに。あくまでうどん県の人たちは出汁に拘る。
    かつお節とネギ少々を乗せ、寸胴の蛇口を捻り、出汁をたっぷり掛ける。
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    朝のバイトを終えて腹が減っている。
    テーブルに着くなり、かき揚げとちくわ天を割り箸でうどん玉の下に潜りさせ、 三角いなりを一口食べる。汁がたっぷり含んだ処でちくわ天を頂戴する。
    労働を終えた充実感、労働へ感謝、食への感謝、至極の時間だ。
    瀬戸内の練り物は旨い。出汁や細ネギには賛同しないが、ちくわ、さつまあげなど新鮮な小魚が入っているのだろう。掛け値なしで旨い。
    味わいながら食べていると、背後から声がした。
    「おお、豪勢やなぁ~」
    サトウが俺の丼を覗き見ながら声を掛けた。
    彼とは同じ学部で気のおけない友人だ。 運んできた彼のトレーを見て笑ってしまった。 トレーの丼は、うず高く積まれた花かつおが、うどん玉を隠し、その上に、たっぷりと細ネギが掛けてある。
    明らかに揚げ物が載っていない、かけうどんだ。
    一見すると剣山の茶色の山肌にグリーンの森林が生い茂っている様で、その高さとコントラストが笑える。
    「どうしたん?・・」と笑い顔で返すと、と「たまやに貯金して来た。」とやはり満面の笑顔で返した。
    先日の借りを返すべく朝一で挑んだパチンコ店、返り討ちに合いスッカラカンになっちまったのだ。下宿に帰ろうとしたが腹が空き、 小銭の80円を握りしめて入ってきたのだった。
    それにしても、今時、かけうどんだけを食べに来るお客がいるのかと、笑いが止まらなかった。
    「会計の時おばちゃん、嫌な顔せんかったか?」と聞く。
    嫌な顔はせんかったけど、ちょと引いていたなと笑って答えた。それを聞いて、 口の中に入っているうどんが吹き出しそうになり慌てて口を手で押さえた。
    愛すべき貧乏人サトウの旨そうに食べる姿が、あまりに可哀そうで、食べかけのちくわ天を、そ~と、どんぶりに載せてやった。
    「すまんのう~」の声に、善行をしたその日は、まことに盛って清々しい一日だった。
     

    -おわり-
    [四寺廻廊] 2018.4.22


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